国産AIの開発をめぐり、Noetraを中心にした44社連合の動きが注目されています。テーマは単なる国産LLMではなく、工場、物流、医療、通信、ロボットなど、現実世界のデータを扱う「フィジカルAI」の土台づくりです。
経済産業省は2026年6月30日、NEDOと連携して「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」を開始すると発表しました。NEDOの公募では15件の申請を審査し、Noetraと産業技術総合研究所などを実施予定先として決定しています。事業期間は2026年度から2030年度です。
Noetraとは何をする会社か
Noetraは、AIロボットやフィジカルAIの基盤となる国産マルチモーダル基盤モデルの研究開発を進める会社です。ソニーグループ、ソフトバンク、NEC、Hondaが中核企業として名を連ね、2026年7月16日の公式発表では、国産AIの開発や活用を進める企業など合計44社から出資を受けたことが明らかにされました。
参画企業には、製造、通信、金融、素材、建設、ロボット、半導体、研究開発など幅広い業種が含まれます。これは、フィジカルAIが一社だけのソフトウェア開発では完結しにくいことを示しています。現場にある設備、センサー、作業手順、品質データ、保守データなどをどう安全に扱い、産業横断で使える基盤モデルに変えていくかが焦点です。
フィジカルAIが重視される理由
フィジカルAIとは、言語だけでなく画像、動画、音声、センサーデータ、空間情報などを扱い、現実世界の作業や判断に関わるAIを指します。チャットで文章を返すAIとは異なり、製造ラインの異常検知、ロボットの動作判断、物流拠点の最適化、医療・ヘルスケア機器の支援など、物理的な現場との接点が大きくなります。
経産省は、国内産業の現場データを守りながら活用できる国産マルチモーダル基盤モデルの必要性を挙げています。特に日本は製造業やインフラの現場力を強みとしてきました。その強みをAIに取り込めるかどうかは、労働力不足や国際競争力の面でも重要な論点になります。
開発ロードマップのポイント
公式発表によると、Noetraは2026年度から順次、日本語理解、論理推論、指示遂行などを備えた推論基盤モデルを構築する計画です。2028年度には言語、画像、動画、音声を統合的に処理するオムニモーダル基盤モデルを開発し、2030年度には空間認識など物理特性を理解する「実世界ネイティブAI」を目指します。
さらに、NVIDIAの協力のもと、NVIDIA Rubin GPUを約2万7,500基搭載したAI計算基盤を構築する予定も示されています。構築開始は2027年4月、稼働開始は2028年6月の計画です。大規模な計算資源を国内で確保することは、モデル開発の速度だけでなく、データ管理や経済安全保障の観点でも意味を持ちます。
企業連合で進める意味
今回の取り組みで特徴的なのは、AI企業だけでなく、製造業、金融、通信、建設、素材、医薬、ロボット関連など、多様な企業が参加している点です。フィジカルAIは、モデルの性能だけでなく、現場で使えるデータ、設備との接続、安全性、運用ルール、業務プロセスの設計がそろって初めて価値が出ます。
たとえば製造業では、品質検査、設備保全、作業支援、設計支援などでAI活用の余地があります。ただし、工場データは企業競争力そのものでもあるため、海外クラウドや外部モデルにそのまま渡せばよいという話にはなりません。国内で信頼できる基盤モデルと計算資源を育てる狙いは、ここにあります。
読者が見るべき論点
Noetraの取り組みは、すぐに一般消費者向けサービスとして見えるものではないかもしれません。しかし、産業向けAIの基盤が整えば、工場の省人化、物流の効率化、災害対応、医療・介護支援、ロボット活用などに波及する可能性があります。
一方で、計画は2030年度までの長期プロジェクトです。GPU基盤の構築、モデル性能、データ提供の枠組み、外部提供の条件、参加企業の実装力など、成果を判断するには今後の進捗確認が欠かせません。現時点では「日本版の大規模AI産業基盤づくりが始まった」と捉え、投資判断や企業評価に直結させすぎない姿勢が重要です。
まとめ
Noetraを中心とする44社連合は、国産AIの議論を「日本語LLM」から「現場データを扱うフィジカルAI基盤」へ広げる取り組みです。経産省とNEDOの事業、産総研やPreferred Networksなどの技術者、中核企業と幅広い参画企業、そして大規模なAI計算基盤が組み合わさることで、国内産業向けAIの土台をつくろうとしています。
成否の鍵は、モデルそのものの性能だけでなく、企業が安心して現場データを活用できる仕組み、実装先の業務課題との接続、そして長期的な運用体制にあります。2026年度から2030年度にかけて、どの段階で実用例が見えてくるかが注目点です。
主な出典
- 経済産業省「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」を開始します(2026年6月30日)
- NEDO「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の実施体制の決定について(2026年6月30日)
- ソフトバンク株式会社ほか「国産マルチモーダル基盤モデルの開発に向けて本格始動」(2026年7月16日)
- NEC「国産マルチモーダル基盤モデルの開発に向けて本格始動」(2026年7月16日)
主な参照情報
この記事は、公開時点で確認できる公的機関・企業・取引所などの情報をもとに、Noetraとは?44社連合で進む国産フィジカルAI基盤の狙いに関する背景と確認ポイントを整理しています。
株式、為替、金利、金融商品に関する内容は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や投資行動を推奨するものではありません。
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