物流DXの話題では、配送ルートの最適化や倉庫ロボットが注目されがちだ。だが、実際のサプライチェーンでは、その手前にある受発注、帳票処理、在庫確認、既存ERPとの連携が詰まりやすい。ここが紙、PDF、表計算、個別システムに分かれたままだと、輸送や倉庫だけを高度化しても全体最適には届きにくい。
この領域で注目したいのが、リチェルカのAgentic ERP「RECERQA」と、NXグループの資本業務提携だ。両社は2026年6月25日に資本業務提携契約を締結し、受発注プロセスの効率化・高度化や、物流領域に特化したAIエージェントの共同開発に取り組むとしている。
RECERQAとは何か
RECERQAは、リチェルカが提供する受発注領域向けのAgentic ERPだ。一般的なERPが記録・管理を中心にしてきたのに対し、RECERQAはAIがデータを理解し、業務判断や実行支援まで担うことを目指す点に特徴がある。
公式発表では、異なるフォーマットの帳票をデータ化し、業務ルールを構造化し、既存システムと連携することで、受発注を中心としたサプライチェーン業務のデジタル化・自動化を進めると説明されている。つまり、単なるAI-OCRや入力補助ではなく、仕入、在庫、販売といった業務の流れにAIを組み込む構想だ。
なぜ物流企業が受発注AIに投資するのか
NXホールディングスの公式発表では、企業間の受発注業務には紙やPDFなど形式の異なる帳票が多く残り、データ入力や照合作業など属人的な業務が残っていると指摘している。ERPの保守・運用を担う人材不足やシステムの老朽化も、業務改革の背景にある。
物流会社にとって、受発注は単なる事務作業ではない。注文情報、在庫情報、出荷予定、輸送条件、納品先の制約は、倉庫運営や輸送ネットワークに直結する。ここが遅れたり、手作業で分断されたりすると、トラックや倉庫の稼働率、欠品、過剰在庫、問い合わせ対応にも影響が出る。
今回の提携でNXグループは、リチェルカのAI技術を活用してグループ内の非定型業務を自動化し、受発注関連業務の効率化を進めるとしている。さらに、物流領域に特化した新たなAIエージェントの共同開発にも取り組む。ここが、単なるシステム導入ではなく「物流AI」の実装として見たいポイントだ。
Agentic ERPが変える可能性
Agentic ERPという言葉はまだ一般的ではないが、考え方は分かりやすい。従来のERPが、人が入力したデータを蓄積し、照会し、承認フローを回す仕組みだとすれば、Agentic ERPは、AIが帳票や履歴、業務ルールを読み取り、次に必要な処理を支援する仕組みを指す。
たとえば、取引先ごとに異なる注文書の形式を読み取り、既存ERPと照合し、在庫や納期の確認を促す。例外があれば担当者に確認し、ルール化できる処理は次回以降の自動化につなげる。こうした流れが実現すれば、人は単純な転記や照合から離れ、例外処理、取引条件の改善、顧客対応に時間を使いやすくなる。
ただし、AIが自律的に業務を支援するほど、重要になるのはデータ品質と権限設計だ。どの情報をAIに読ませるのか、どの判断まで自動化するのか、承認が必要な処理はどこか、誤処理が起きた場合の責任範囲をどうするのか。物流現場では、効率化だけでなく、監査性や例外時の復旧手順も欠かせない。
在庫可視化と輸送ネットワーク最適化への広がり
両社の発表では、リチェルカの技術とNXグループのネットワークを組み合わせ、在庫可視化や輸送ネットワーク最適化など、より高度な物流ソリューションを提案するとしている。これは、受発注データを入口にして、物流の意思決定を上流から変える方向性と読める。
在庫可視化は、倉庫内の数量を表示するだけでは不十分だ。どの注文がいつ入り、どの拠点から出荷され、どの輸送手段を使い、どのタイミングで補充が必要になるのかまで見えなければ、実務の判断にはつながりにくい。受発注データと物流ネットワークがつながることで、AIが提案できる範囲は広がる。
輸送ネットワーク最適化も同じだ。単に最短ルートを選ぶのではなく、納期、積載率、倉庫の作業負荷、返品や再配達、取引先別の制約を考える必要がある。物流AIの本質は、現場データと業務ルールを結びつけ、個別最適ではなくサプライチェーン全体の判断を支援するところにある。
導入企業が確認したい3つの論点
1つ目は、既存ERPとの連携範囲だ。RECERQAは既存ERPと連携しながら段階的に移行し、業務を止めずに仕入・在庫・販売などの領域から順次最適化を進めると説明されている。導入を検討する企業は、全面刷新なのか、周辺業務から始めるのかを明確にしたい。
2つ目は、非定型業務の棚卸しだ。AIが効果を出しやすいのは、手作業が多く、形式がばらつき、担当者の判断が暗黙知になっている領域だ。一方で、ルールが曖昧なままAI化すると、例外処理が増えてかえって現場負担が大きくなる。先に業務ルールを整理することが重要になる。
3つ目は、成果指標の置き方だ。入力時間の削減だけでなく、照合ミスの減少、納期回答の短縮、在庫差異の低下、問い合わせ対応の削減など、現場と経営の両方が納得できる指標を持つ必要がある。物流DXはツール導入ではなく、業務運営モデルの変更として見るほうがよい。
まとめ
リチェルカとNXグループの提携は、物流DXが配送や倉庫の自動化だけでなく、受発注とERPの領域に広がっていることを示している。RECERQAが掲げるAgentic ERPは、紙やPDF、既存システム、業務ルールの分断をAIでつなぎ直す試みだ。
もっとも、現時点で見えているのは提携と取り組み方針であり、導入効果や共同開発されるAIエージェントの具体像は今後の発表を待つ部分もある。読者としては、受発注データ、在庫、輸送ネットワークがつながることで、物流の意思決定がどこまで変わるのかを継続して見ていきたい。
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